黒澤がある日、ぽつりと言った。
少しの過去の話。
それが、私の中で、今まで聴いてきた話とカシャカシャと音を立てて組み合わさり、
まるで、機械仕掛けのように形になった。
まるで理解しがたい、恐怖も覚えるような黒澤の欲望。
ほんの少しのタイミングのずれだけで、黒澤は今私の前に存在する。
神頼みはしても、神に感謝しない罰当たりの私が、
この時初めて神に感謝した。。。
小さなころから女の子を縛り、青年になってからは性欲に任せ女を抱き、
SMの世界の住人になった。
それはそのほうが相手が見つかりやすい。。ただそれだけ。
黒澤はSMを語らない。こうあるべきだとか、そうでなければいけないとか、
そんなことには全く興味がない。
そういう思想を語る人が多い中、私にとって黒澤は異種だった。
周りの誰かに決して悟られることないように、黒澤は二面性を身に着けた。
語らないのではなく、語れない。。
異常なまでの加虐を、実行すれば犯罪となり、思うままに振舞えば、
目の前の女は壊れる。
それを身を持って感じながら、理性で押さえつけてきた。
欲望が大きくなればなるほど、理性は更に強くなければならなかった。
黒澤は、ぎりぎりのところにいた。。。
壊さない方法を学び、犯罪者にならないために、
欲望を分散させ、沢山の女を抱き、一日に何人もの女を変え、
少しずつ、リアルを体感することで、放散する。
冷酷なほどに女を使い分け、要らなくなったら捨てる。
縄を扱い、それに集中し、入り込み過ぎないようにコントロールし、
ぎりぎりのところで、欲望を解き放つ。
黒澤のその異常さが私を混乱させる。
理解しがたい異常さが、私の肉欲と対比した形でリンクする。。。
私が自分の異常さに自覚し、忌み嫌い、隠し続けるために、女を捨てた時期を過ごした
理性を保つしかなかった自分と交錯する。。。
まったく違うもの。。
それでも黒澤と私は似ている。。
私は自分の求めるものを全て叶えられたら死んでしまう。。
誰にも言えない吐き出せなかった肉欲の異常性。。。
誰にも理解など出来るはずもなく、パートナーとして存在しても、
それは隠さなければならなかったこと。。
黒澤は私に体を舐めさせることはない。。
フェラで感じない、単純な刺激や視覚的な刺激で、興奮することのない黒澤は、
イマラチオをさせても、もうフェラをさせることはないだろう。。。
リアルに、リアルだけを求めて、欲望を吐き出せる相手だけを求めて来た人。
黒澤の初めて見せた中身に私は切なさでたまらなくなった。。。
黒澤は私を縛り、肉を掴み、穴を使う。
鞭を振り、蝋をたらし。。。
それらのどの一つも黒澤が単純にそれがしたい訳ではなく、
それを扱うことで、泣き叫ぶ女をリアルとして認識する。。
初めて肉欲が刺激を受けて動く。。
私は痛みが好きなのではなく、ぎりぎりの混乱の中で、
黒澤に欲望を突きつけられ、使われ、落ちていくことで初めて、自分を認識する。
二人とも欲するものの異常性がわかっているから、妄想を求めてはいけないことを知っていた。
日常の中に組み込むことの出来ない非日常の中だけで、二人は存在を確かめる。
実感することでそれが妄想でない事を確かめ、求め合う。
日常の中に絶対に融合させることの出来ない関係。。。
二人は共に過ごすことが出来る環境であっても。。。
つたう黒澤の唾液で喉を潤し、叫ぶ私の声を聞き、
乳首を噛み切ろうとする歯で私を捉え、加虐を満たすことで、
私を現実だと改めて実感する。。。
私たちのしていることは、妄想への疑似体験なのかもしれない。。。
SMなどというものとは程遠い、疑似体験。。
妄想の中で、得られるかもしれない、体の刺激と脳の刺激と体の反応。。。
それに少しでも近づこうと、限られた時間の中で求め合い、貪りあう。。。
妄想の中で抱くのではなく、妄想の中で抱かれるのではなく、
求める肉欲を、リアルに体験するために。。。
その時黒澤の前には私しかいない。
その時私の前には黒澤しかいない。。。
「生まれ変われるなら、もっと早く私を見つけて。。
お願いだから。。そうすれば、誰にも迷惑がかからない」
生まれ変わりなどありえない。。それでもそう願った。
いつもはそんな事却下されてしまうはずなのに、
その時黒澤は
「そうだな」
とだけ言った。
黒澤の異常さが組み立てられたとき、
切なさで泣いた。。
泣きながらオナニーをし、
苦しさで何度も何度も行った。。。
狂ってる私は、黒澤のために生まれた。。。そう思った。。
陳腐な言葉。。
それでも逝くときに感じた。。。
私は壊れるわけにはいかない。。。黒澤がつまらなくなるから。。。